徒然想6
くちなしや 明日の花の 色さびて 八荒子
花の命は短くて、美しい花をつけるほど、退色時には惨めである。くちなしの花は、その代表であろう。
しかし、梅雨時には純白の六弁花を咲かせ、甘い香りを漂わせてくれる。
金木犀(きんもくせい)・沈丁花(ちんちょうげ)と並んで、三大香木として親しまれている。くちなしは、秋には橙赤色の果実をつけます。
しかし、この実が熟しても、裂開せず、つまり実の口が開かない事から「くちなし」と和名がついたとされています。ただし、庭木として、よく栽培されているくちなしは品種が違い、秋になっても実は付けないものです。
ところで、先日、連休を利用して、女子のプロゴルフを観戦に行って来た。このトーナメント観戦は7~8年、続いていると思う。全選手が試合を終わると、お目当ての選手のサイン会が待っている。そして毎年、お目当ての選手が入れ替わるのに驚く。サインを欲しがる観客の列は100mにも及ぶ。2年前は賞金女王の「イ・ボミ」、昨年はモデル顔負けの「アンシネ」、今年は黄金世代のホープといわれる「三浦桃香」であった。有名人になると、人からサインを頼まれることが多い。面倒な事と思うが、これも人気のバロメーターであり、有名税を払う事と割り切ってサービスしているのであろう。
嘘のような本当の話がある。
将棋界のレジェンド、加藤一二三九段が、新幹線のホームで、中年の婦人からサインを頼まれた。彼が、自分のサインをしようとしたら、すぐそばで見ていた人が、その婦人をつかまえて、「この人、誰ですか?」と聞いている。その婦人は得意気な表情で「国民栄誉賞を貰った将棋の羽生さんですよ。」って。思わず 加藤九段はサインの手を止めて、おもむろに「羽生善治」と書いて、逃げるようにその場を離れたそうである。
ところで、有名人の中でも作家は一般にサインする事に多少の抵抗があるようである。それは文筆家と言うことで、文字を書く事が商売だけに、文字を書くという事に、一種の構えと億劫(おっくう)さがあるという事らしい。又、作家の先生の字は上手いだろうと思い込んでいる先方の思惑違いも気にかかるそうである。
プロ野球の選手などの場合、背番号とチーム名、自分の名前を機械的に書いていれば充分と感じがあるが、作家の場合「何か一言、良い言葉を」を付け加えるよう要求されると、あとあと残るものだけに、ちと利口そうな文句を書き並べようと思い込んでしまうらしい。
自分の名前の他に一筆書きなど、簡単な事のように思われるのであれば、プロ野球選手にサインの後で、バットを手渡して「ここでいつものスイングをしてみて下さい。」と頼むのと大した違いは無いと憤慨するのである。
ある高名な作家がゴルフに行って、プレー前にキャデーさんからサインを求められたが頑に断った。ゴルフが終わって、同じキャデーさんから「先生、サインを・・・。」「ばかッ、俺はサインをしないと言っただろうッ。」と怒鳴った。ところが、そのサインはグリーンヒィーを支払うに必要な伝票のサインだったという笑い話がある。
里村 盟