pregnancy
甲状腺ホルモンは、胎児の脳・神経・身体の発育に欠かせないホルモンです。特に妊娠初期(〜12週頃)は、赤ちゃんがまだ自分でホルモンを作ることができないため、お母さんの甲状腺ホルモンが胎盤を通じて赤ちゃんに届けられます。この時期のホルモン不足や過剰は、胎児の発達に直接影響します。
妊娠中は体全体のホルモン環境が大きく変化するため、それまで問題がなかった方でも甲状腺の機能が乱れることがあります。また、甲状腺疾患の症状は妊娠中のつわりや疲れと区別がつきにくく、見過ごされやすいという特徴があります。
妊娠前・妊娠中・産後のそれぞれの時期に適切な管理を受けることが、お母さんと赤ちゃん双方の健康を守ることにつながります。

妊活中の方へ
甲状腺疾患と不妊の関係甲状腺ホルモンは卵胞の成長にも関係しています。
不妊治療中の方・流産を繰り返している方は、甲状腺機能の確認が強く推奨されます。適切な治療でホルモン値を正常範囲に整えることで、妊娠しやすい状態に近づけることができます。
チェックリスト
甲状腺の検査を受けることをお勧めする方以下に該当する方は妊娠前または妊娠初期に甲状腺機能の確認をお勧めします。
妊娠中に
気をつけるべき甲状腺疾患甲状腺ホルモンが不足した状態で妊娠すると、以下のリスクが高まります。
潜在性甲状腺機能低下症(TSHのみ高値で自覚症状がない状態)であっても、妊娠中・妊娠希望中は治療の適応となる場合があり、通常の基準値よりも厳しく管理する必要があります。
妊娠中は甲状腺ホルモンの必要量が20〜50%程度増加します。妊娠がわかった時点で速やかに主治医へ連絡し、服用量の見直しを受けてください。自己判断での中断は危険です。レボチロキシンは妊娠中・授乳中も安全に継続できる薬です。
| 時期 | TSH目標値 |
|---|---|
| 妊娠前・妊娠初期 | 2.5 mIU/L以下 |
| 妊娠中期(14週〜) | 3.0 mIU/L以下 |
バセドウ病が未治療・コントロール不良の状態での妊娠は、以下のリスクと関連します。
バセドウ病の治療薬であるチアマゾール(MMI・メルカゾール)は、妊娠初期(特に妊娠5〜10週)に服用すると、へその緒の異常・頭皮の欠損などの先天異常リスクが高まることが報告されています。
そのため、日本甲状腺学会のガイドラインでは妊娠初期はプロピルチオウラシル(PTU・チウラジール)への切り替えが推奨されています。ただしPTUにも肝機能障害などのリスクがあるため、自己判断での変更は非常に危険です。妊娠がわかったら必ず速やかに主治医へご連絡ください。
なお、放射性ヨウ素(アイソトープ)治療は妊娠中は使用できません。胎児の甲状腺を傷つける可能性があるため、妊娠中・授乳中は絶対に行わない治療です。
MMIの影響が最も出やすい妊娠5〜10週は、妊娠に気づく前の期間と重なることがあります。バセドウ病の治療中で妊娠を希望している方は、妊娠前に主治医へ相談し、あらかじめ薬の変更・減量・または手術治療の検討を行っておくことが強く推奨されます。
バセドウ病の原因となる抗体(TRAb)は胎盤を通じて赤ちゃんに移行します。お母さんのTRAbが高値の場合、赤ちゃんが出生後に一時的な甲状腺機能亢進症を起こす「新生児バセドウ病」のリスクがあります。多くは生後3ヶ月頃までに自然に改善しますが、妊娠中からTRAbの値を定期的に確認し、出産時に産科・新生児科と情報共有しておくことが重要です。
出産後は免疫のバランスが大きく変動するため、産後甲状腺炎が起こることがあり、時期によって症状が変わります。産後の女性の約7〜10%(約10〜15人に1人)に見られます。特に抗TPO抗体が陽性の方、橋本病・バセドウ病の既往がある方はリスクが高いため、産後2〜3ヶ月での甲状腺機能検査をお勧めします。
動悸・多汗・イライラ・手のふるえ・体重減少など、バセドウ病に似た症状が出ます。「産後なのに体重が早く戻った」と感じる場合も、実は病的な体重減少であるケースがあります。
強いだるさ・むくみ・気力の低下・気分の落ち込み・母乳の出にくさなどが現れます。産後うつと非常に症状が似ており、見分けがつきにくいのが特徴です。この時期の不調を「育児の疲れ」「性格の問題」と見過ごさず、血液検査を受けることで原因が明らかになります。
多くの方は自然に回復しますが、約25〜30%の方はそのまま永続的な甲状腺機能低下症へ移行することが報告されています。回復したように見えても、その後の定期的な確認が重要です。
だるさ・気分の落ち込み・体重の変化が続く場合、ホルモンの乱れが原因であることがあります。血液検査を受けることで原因がはっきりし、適切な治療につながります。お子さんの予防接種や乳児健診のついででも構いませんので、気になることがあればお気軽にご相談ください。
妊娠前から産後までの
甲状腺管理の流れ甲状腺ホルモンの材料となるヨウ素(ヨード)は、妊娠中は需要が増えます。一方で、海藻類などからの過剰摂取は甲状腺の機能を低下させる場合があります。
特別な制限は必要ありませんが、昆布・ひじきなどの海藻類を毎日大量に食べる習慣がある場合は、主治医へ相談することをお勧めします。

妊娠中に甲状腺の
しこり・がんが見つかったら妊娠中は既存の甲状腺結節が大きくなったり、新しい結節が見つかりやすくなることが報告されています。多くは良性ですが、一部に悪性が含まれます。妊娠中に甲状腺乳頭がんが見つかった場合も、慌てる必要はありません。
超音波(エコー)検査および穿刺吸引細胞診は妊娠中でも安全に行えます。ただし、放射性ヨウ素を使う検査・CTなどの放射線被曝を伴う検査は、以下の理由から妊娠中は原則として行いません。
出典:一般社団法人 日本内分泌外科学会 甲状腺腫瘍診療ガイドライン2024より
https://jaes.umin.jp/info/guidelines_guideline2024.html
出典:Alexander EK, Pearce EN, Brent GA, et al. 2017 Guidelines of the American Thyroid Association for the Diagnosis and Management of Thyroid Disease During Pregnancy and the Postpartum. Thyroid. 2017.より
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28056690/
出典:National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases. Thyroid Disease & Pregnancy.より
https://www.niddk.nih.gov/health-information/endocrine-diseases/pregnancy-thyroid-disease
さいたま大宮糖尿病相談室
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当院では糖尿病の診療と並行して、甲状腺機能のスクリーニングや経過観察を行っています。「糖尿病の治療中に甲状腺の異常を指摘された」「妊娠を機に甲状腺と血糖の両方が心配になった」「産後から体調がすぐれない」という方も、まずはお気軽にご相談ください。状態によっては甲状腺専門医と連携しながら診療を進めることもあります。
予防は治療に勝るという理念のもと、糖尿病だけでなくその背景にある体全体の変化を見逃さない診察を心がけています。少し気になるけれど大丈夫だろうと思わず、気づいたその時点でご相談いただくことが大切です。スタッフ一同、丁寧な診察でお迎えします。

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